<Header>
<Author: 魏徵>
<Title: 述懷>
<Format: 格式不明>
<Year: 1964>
<BookName: 唐詩選　上>
<Translator: 斎藤晌>
<style: 現代文無假名>
<style2: 日本現代譯文無假名標注>
<TranslatedTitle: 述懷>
<BookPage: 17>
<UsedPage: 1>
<Feature: 1, 4>
<End Header>
<Poem>
中原初逐鹿，
投筆事戎軒。
縱橫計不就，
慷慨志猶存。
杖策謁天子，
驅馬出關門。
請纓繫南粵，
憑軾下東藩。
鬱紆陟高岫，
出沒望平原。
古木鳴寒鳥，
空山啼夜猿。
既傷千里目，
還驚九折魂。
豈不憚艱險，
深懷國士恩。
季布無二諾，
侯嬴重一言。
人生感意氣，
功名誰復論。
<End Poem>
<Translation>
隋の煬帝の失政から世はまた亂れに亂れ、群雄が諸國に割據して、あたかも
多くの獵師が一匹の鹿をおいかけるように、われこそ天下をとろうと互いに鬪爭する有樣ではないか。一介の文學の士である自分も、筆を投げ棄てて戦亂の巷に奔走する身となった。われ、いくたびか群雄に說いて、字内統一の秘策を獻じたが、ついに成功をみなかった。しかし今なお天下國家を憂うる氣持ちにかわりはない。新しくおこった唐にはせ參じた自分は、直接、天子に謁見して東方宣撫の大任を買って出た。自分の申し出はただちに聞き届けられ、今や天子の使者として、馬を走らせて潼關を出、函谷關を出て、强
敵の中心に乗りこんで行くのだ。昔、終軍という學者は漢の武帝の命を受けて南越を歸順させるための使者にたつとき「願わくば冠の長い紐を頂戴いたしたい、それで南越王をつないで馬をひっぱるようにして、つれて歸ってまいりましょう」といったそうだが、南越王を説得して漢に服從させることに成功した。また酈食其という男は、漢の高祖のために齊の國におもむき、齊王に説いて歸服せしめた。つまり、車に乗ってかけめぐるだけで、一兵もついやさずに齊の七十餘城を下したのだ。自分は終軍や酈食其の行動を今やろうとしているのだ。まがりくねった道を通って高い山頂に登るかと思えば、見おろすかなたには遙かに平原が見えたり隱れたりする。古木には鳥がさむざむとした聲で鳴いているし、夜になると、人けのない山の奥で猿のなくのも耳にはいってくる。千里の旅に出た自分としては、見るもの聞くもの、みな心をいたましめる種であるが、つづらおりのけわしい坂路にさしかかると、はっと肝をひやすのだ。昔の人が、盆州の九折坂で驚きおそれたのも、こんなふうだったかと思われる。
自分も人間だ。艱難辛苦が平氣なわけではない。なにも途中の苦勞だけではない。前途にはまだまだ大難が待ちかまえている。酈食其は車の横木にすがったままで齊の七十餘城を下したまではよかったが、韓信が自分の軍功を奪われるのをおそれて、知らぬ顔をして齊王を攻撃した。歸順の意思を表している齊王は酈食其にだまされたと思って激怒し、酈食其を捕えて煮殺してしまった。また終軍も南越に單身乗りこんで行って國王を歸屬せしめることに成功したとはいえ、その下の宰相が漢にくだることを好まず、叛旗をひるがえして國王を攻め殺し、漢の使者終軍もいっしょに殺されてしまった。自分の行く手にも同じような運命が待っていないとはいえない。
しかし大唐皇帝は新參の自分を信任して國士として待遇し、この大役を授けられた。自分はこの恩寵に感激せざるを得ないではないか。昔、楚の季布という勇士は一度引受けたことばは絶對にたがえなかったし、魏の侯嬴という老人は一言の約束を守るために、ついにみずから首をはねることも辭せなかった。人間と生まれては意氣に感じて働く。そうなれば功名など、かれこれと論ずるにたらぬ。自分はまっしぐらにすすんでゆくだけだ。
<End Translation>
<Formatted Translation>
隋の煬帝の失政から世はまた亂れに亂れ、群雄が諸國に割據して、あたかも
多くの獵師が一匹の鹿をおいかけるように、われこそ天下をとろうと互いに鬪爭する有樣ではないか。
一介の文學の士である自分も、筆を投げ棄てて戦亂の巷に奔走する身となった。
われ、いくたびか群雄に說いて、字内統一の秘策を獻じたが、ついに成功をみなかった。し
かし今なお天下國家を憂うる氣持ちにかわりはない。
新しくおこった唐にはせ參じた自分は、 直接、天子に謁見して東方宣撫の大任を買って出た。
自分の申し出はただちに聞き届けられ、今や天子の使者として、馬を走らせて潼關を出、函谷關を出て、强敵の中心に乗りこんで行くのだ。
昔、終軍という學者は漢の武帝の命を受けて南越を歸順させるための使者にたつとき「願わくば冠の長い紐を頂戴いたしたい、それで南越王をつないで馬をひっぱるようにして、つれて歸ってまいりましょう」といったそうだが、南越王を説得して漢に服從させることに成功した。
また酈食其という男は、漢の高祖のために齊の國におもむき、齊王に説いて歸服せしめた。つまり、車に乗ってかけめぐるだけで、一兵もついやさずに齊の七十餘城を下したのだ。自分は終軍や酈食其の行動を今やろうとしているのだ。
まがりくねった道を通って高い山頂に登るかと思えば、
見おろすかなたには遙かに平原が見えたり隱れたりする。
古木には鳥がさむざむとした聲で鳴いているし、
夜になると、人けのない山の奥で猿のなくのも耳にはいってくる。
千里の旅に出た自分としては、見るもの聞くもの、みな心をいたましめる種であるが、つづらおりのけわしい坂路にさしかかると、はっと肝をひやすのだ。
昔の人が、盆州の九折坂で驚きおそれたのも、こんなふうだったかと思われる。自分も人間だ。艱難辛苦が平氣なわけではない。なにも途中の苦勞だけではない。前途にはまだまだ大難が待ちかまえている。酈食其は車の横木にすがったままで齊の七十餘城を下したまではよかったが、韓信が自分の軍功を奪われるのをおそれて、知らぬ顔をして齊王を攻撃した。歸順の意思を表している齊王は酈食其にだまされたと思って激怒し、酈食其を捕えて煮殺してしまった。
また終軍も南越に單身乗りこんで行って國王を歸屬せしめることに成功したとはいえ、その下の宰相が漢にくだることを好まず、叛旗をひるがえして國王を攻め殺し、漢の使者終軍もいっしょに殺されてしまった。自分の行く手にも同じような運命が待っていないとはいえない。
しかし大唐皇帝は新參の自分を信任して國士として待遇し、この大役を授けられた。自分はこの恩寵に感激せざるを得ないではないか。
昔、楚の季布という勇士は一度引受けたことばは絶對にたがえなかったし、魏の侯嬴という老人は一言の約束を守るために、ついにみずから首をはねることも辭せなかった。
人間と生まれては意氣に感じて働く。
そうなれば功名など、かれこれと論ずるにたらぬ。自分はまっしぐらにすすんでゆくだけだ。
<End Formatted Translation>